マジシャンが左手にコインを1枚握っていて、更にテーブルの上には100円玉、50円玉、10円玉の3枚がある。
「この3枚を、2枚と1枚に分けてください。」とマジシャンは言う。
あなたが100円玉を1枚と、50円玉と10円玉のグループに分けると、マジシャンは左手に握っていた100円玉を見せ、得意気に言う。
「あなたが100円玉を選ぶことは分かっていました。」
では先程、100円玉と50円玉のグループ、10円玉1枚という分け方をしていたらどうなっていただろうか。その場合、マジシャンはこう続ける。
「今度はその100円玉と50円玉のうち、好きな方を握ってください。」
50円玉を握れば「あなたがこの100円玉を残すことは分かっていました。」
100円玉を握れば「あなたが100円玉を握ることは分かっていました。」
そう言って、マジシャンは得意気に握っていた100円玉を見せてくれる。
これが所謂マジシャンスセレクトと呼ばれるもの。さも観客に選ばせているように見せているが、最終的には必ずマジシャン側が意図した対象を選ばせている。
他にも、好きなカードを引いてくださいと言って選ばせておいて、
- ではそのカードを使って手品をします
と言ってみせたり、さもなくば
- そのカードはあなたにあげます。残ったこちらのカードで手品をします
と言ったりする。マジックの初歩的なテクニックらしい。
お店に来ていた客、通称「ボス」
ここ2年ほど来ていないのだが、以前恐ろしい客が居た。クレーマーというと言い過ぎなのだが、必ずひとつ難癖を付けていく。というか、難癖を付ける為にご来店しているのではないか、と思わされる程であった。あまりの厄介さと恐ろしい風貌/言動に、従業員の間ではこっそり「ボス」と呼ばれていた。
例えば弁当とチョコパンをお買い上げ。
こちらが「温めますか?」と訊くと、
ボスは「あたりめェだろうが!!!さっさと温めろ!!」
とお怒り。
次の日も弁当とチョコパンをお買い上げ。
昨日の経験から「温めますね」と言って弁当を電子レンジへ。
ボスは「おい何テメェ勝手なことしてんだ!!」
今日は温めないらしい。
で、更に弁当を温めると、チョコパンとの温度差が生まれる。
そこで「袋は別々になさいますか?」と訊くと、
ボスは「あたりめェだろうが!!!チョコが溶けるだろう!!!」
こっちもそう思って訊いたんですよ、訊くだけで怒らないでくださいよ…とは言えず。
更に次の日も弁当とチョコパンをお買い上げ。
普通はお客さまにYes/Noを伺ってから袋を2枚にしたり1枚にしたりするのだが、昨日の件もあるので、問答無用で袋を2枚ご用意することに。
すると今度は「あーもう!!袋1枚でえぇわ!!別々にされると両手が塞がるッ!!」
とのことでお怒り。
どーすりゃええねん。従業員一同、頭を悩ませたものだ。
結局ボスの上手な対処法を見付けられないまま、気付けば彼がご来店することはなくなった。お引っ越しされたのだろうか。ときどき連れてくる奥様が物凄い美人だったり、子ども達(小学生くらい?)が可愛かったで非常に良く覚えている。元気にされているだろうか。
一度だけボスに褒められたことがある。
「お兄ちゃん、今日は完璧だね。」
ただご機嫌が良かっただけだと思うのだが、あの日のボスの笑顔は忘れられない。